金属アレルギーのメカニズムとは?
「金属アレルギー」とは、いわゆる「金属」を原因として起こる「アレルギー」のことです。しかし、すべての金属がアレルギーを招くわけではありません。そこでこちらでは金属アレルギーを引き起こしやすい金属や金属アレルギーの発症メカニズムをご説明します。
金属アレルギーを引き起こしやすい金属
金属アレルギーの原因となり得る金属は意外と多く、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、水銀の金属がアレルギーを引き起こしやすい上位にランクされます。さらにスズ、銅、カドミウム、亜鉛、マンガンや金などでもアレルギーの原因となることが報告されています。
生命維持にも欠かせない大切な物質でもある金属がどうしてこのような不利益をもたらしてしまうのでしょうか?またアレルギーを起こしやすい金属と起こしにくい金属とでは、どのような違いがあるのでしょうか?
実は問題を起こしやすい金属は、いわゆる『重金属』と呼ばれるものです。それらは電子を放出してイオン化する傾向が強い性質を持っています。そしてそのイオン化というのが、金属アレルギーの重要なキーワードなのです。金属はイオン化したときだけアレルギーを起こすのです。
イオン化というのは、金属が溶け出すイメージです。高温でもないのに金属が溶けるわけないと思われるかも知れません。しかしトンネルの天井が崩れ落ちたり、船のスクリューが溶けて航行に支障をきたしたり、原子力発電所のパイプに穴があいて放射能洩れを起こしたり、飛行機の外板が脆くなってはがれ飛んだなどの事故を耳にされたことはあると思います。これらは金属がイオン化し溶けて溶出し、眼でも見えるぐらいにまで崩れてきた金属なのです。
さて、先ほど述べたように、金属から溶出してきた金属イオンがアレルギーを起こす訳ですが、金属にもイオン化しやすいものと、しにくいものがあります。それが金属アレルギーを引き起こしやすいか否かに関係しているのです。つまりニッケルやクロムはイオン化しやすく、金はイオン化しにくいと言えます。概して卑金属は溶けやすく、貴金属は溶けにくいので、前者のほうがアレルギーを生じやすいのです。
金属アレルギーが発症するメカニズム どうして金属アレルギーは起きるのか?
アレルギーを起こす金属が、口や皮膚などの経路で体内に取り込まれると、次に何が起こるのでしょう?
金属の原子の粒子は、よくアレルギーを引き起こす花粉やハウスダストといった抗原と比べ、比較にならないほど非常に小さいものです。これまでの研究では、アレルギー反応を起こすにはある程度物質としての大きさが必要だと考えられていました。そのため、金属は非常に小さく軽い原子という粒子であるため、水や酸素と同じように免疫反応を起こすはずはないだろうと考えられていました。
しかし近年の研究で、金属が体内で大きな粒子として存在し、アレルギー抗原となることがわかってきました。金属が体内に吸収されると、非常に小さな金属イオン単体として存在するもののほか、血液中のアルブミンというタンパク質と結合して大きな分子を形成します。アルブミンは血液中のいろいろな物質を運搬する働きをするタンパク質ですが、これがイオン化した金属と結合すると、分子量の大きい、もともと体内に存在しないはずの「金属+タンパク質」の複合体が形成されてしまいます。そしてこれが本来体内に存在しない「異種たんぱく」、つまりアレルゲンとして免疫システムが感知することがきっかけとなって、金属アレルギー反応が起きてしまうのです。
このような反応は体内だけではなく、皮膚の表面でも起こり得ます。いったん体内に取り込まれた金属イオンや金属イオンタンパク質複合体が、汗に混ざって排泄されます。これらが、皮膚最外層の表皮に存在するケラチンというタンパク質と結合すると、やはり同様に「金属+タンパク質」の複合体となり、これも同様にアレルゲンとなって金属アレルギーの症状を招いてしまうのです。
口腔内金属がイオン化して溶けだしやすくなる条件
歯科治療による口腔内の金属は、耐久性や安定性のある素材が用いられています。しかしかむ度に過大な咬合力がかかるだけでなく、様々な成分の飲食物に触れることにより、経年的に化学的・物理的要因が関係し溶け出すことが分かっています。その溶け出しやすくなる要因には以下ものがあります。
・phの変化
口腔内に食べ物や飲み物が入ると、ph(酸性・アルカリ性の度合い)が変化して、金属が溶け出しやすくなります。
・むし歯菌・歯周病菌
むし歯菌や歯周病菌が放出する毒素や酸、またプラーク(歯垢)の付着によって、金属が溶け出す量が増えます。
・ガルバニー電流
口腔内に2種類以上の金属があると、それぞれのイオン化傾向の違いから、ガルバニー電流と呼ばれる微小電流が流れ、金属の溶解量を増やします。
・不正咬合、歯ぎしり
かみ合わせがおかしく、不正咬合であったり歯ぎしりなどの癖があると、口腔内で摩耗が起き、金属の溶解量が増えます。
・日本製ではない金属の修復物
海外で作られた金属製品被せ物は治療費は安いですが、適切な金属が使用されていなかったり、不純物が多く混ざっていたりして、腐食や溶解量が多くなり、金属アレルギー患者を増やしているというニュースがあります。
このように歯科治療したかぶせ物やつめ物から金属イオンが溶け出さないようにするためのも、非常に安定性が高い素材、イオン化しにくい素材、あるいはセラミック系統の金属以外の素材で治療していくことは、金属アレルギー患者さんにとって重要なことです。
金属の体内への侵入経路
金属は体内では金属イオンとして存在し、イオンとタンパク質が結合した複合体がアレルギーを引き起こす可能性があるわけです。では、これらの金属はいったいどこから体の中に入ってくるのでしょうか?それにはいくつかの経路があります。主に皮膚経由、口経由、体内に埋め込まれた金属からの3つの経路で取り込まれていきます。
まず皮膚、経皮的な体内への侵入です。一番わかりやすい例だとピアスです。ピアスをすることで知らず知らずのうちに金属が溶けてピアスホールから金属イオンが吸収され、気づいた時にはアレルギー感作が成立してしまっていることが多くあります。同じように腕時計やベルトなどからも体の中に取り込まれていきます。人間の身体は、皮膚をダメージから守るために20ミクロンという薄い角層(角質層)に覆われています。しかし、金属はアレルギーの原因になるアレルゲンの中でも最も小さく、水や汗に濡れて金属分子がイオン化することで簡単に角層内から皮膚内に侵入してしまうのです。
次に口からに関してですが、ここからが一番金属の侵入量の多い部位です。口から入ってくる一番金属アレルギーを引き起こす原因物は、歯科治療で用いられる金属です。日本の歯科治療において保険診療では金属合金が多用されます。それは銀歯などの差し歯や詰め物だけではなく、入れ歯や歯科矯正治療など歯科治療全般で金属が用いて治療されているのです。そのため日本人の口の中には、海外の人と比較して多くの歯科金属治療物が入っています。残念ながらこれこそが日本人の金属アレルギーの最大の原因となっていると言っても過言ではありません。このような口の中にある歯科金属は毎日、かむたびに咬合力が加わり、食べものや飲みもの、唾液などにより少しずつ溶け出しては、口腔粘膜や腸管粘膜から吸収され、体内へと取り込まれていっているのです。
口から入り吸収される金属は、歯科金属だけではありません。実は水道水をはじめとする飲料水や食べ物自体にも金属が含まれているからです。水道水にはカルシウム、ナトリウム、カリウム、 マグネシウムに加え、塩素、鉛や銅などの金属類が、コーヒーや紅茶、お茶にはニッケルが含まれています。また豆類、貝類、海藻類(ワカメや昆布、海苔)、香辛料、オートミール、胚芽、レバー、チョコレート、ココアなどにも金属が多く含まれています。知らないうちに飲食物の中の金属が影響を与えて湿疹やかゆみが収まらないことがあります。通常ですと、これら口から入る金属の多くは通常そのまま便中に排泄されて問題を起こすことはほとんどありませんが、それでも10%ほどは腸管から吸収されてしまうのです。そのため金属アレルギーに敏感な方は食生活にも注意する必要があります。
金属が含まれている代表的な食べ物
- 水道水
- お茶
- 豆類
- 貝類
- 藻類(ワカメや昆布、海苔)
- 香辛料
- オートミール
- 胚芽
- レバー
- チョコレート
- ココア など
体内に埋め込んだ医療機材から金属が取り込まれることもあります。骨折の治療などで用いられるボルトや人工関節に用いられる合金など、整形外科手術で体内に埋め込まれる金属などがそうです。またステント治療でも当てはまりますが、これらは埋め込まれた部位から徐々に金属イオンが溶け出し、血液を介して全身に広がるわけです。
最後に忘れてはならないのは、大気中の金属です。「空気に金属?」と思われるかもしれませんが、空気中にも金属は含まれています。例えば車の排気ガスや工場から出る煙など、汚染された大気には多くのニッケルが含まれているのです。またタバコの煙の中にもニッケルは多く含まれています。ですから、ニッケルアレルギーのある方は禁煙すると症状が治まるだけでなく、周りの方に悪影響を及ぼしている可能性があるので禁煙をお勧めします。
また最近よく聞かれるようになったPM2.5や黄砂も無視できません。PM2.5や黄砂も、発展著しい中国で作られた環境汚染物質が、偏西風に乗って風下の日本に飛んでくるものです。その成分の中身は、砂漠の砂だけではなく、細菌やウイルス、カビ、そしてニッケルや鉛をはじめとした大気汚染物質が含まれています。
そう聞けば、PM2.5や黄砂がひどくなる時期にあわせて、アレルギー症状が強くなるという経験に納得がいく方もいらっしゃるでしょう。これらは目や鼻の粘膜に接触してアレルギー反応を起こすだけではなく、息をして口からも体内に入り込んでいるのです。
金属の排泄経路
このようにさまざまな経路から体内に入り込んだ金属ですが、どのように体の外に排泄されるのでしょうか。通常、体内に取り込まれた金属の大部分は、尿中や便中に排泄され、体に影響が出ないようにバランスを保っています。しかし血液中の金属量が多い場合には、汗や涙、乳汁などからも排泄が起こります。この汗にも混ざるのがポイントです。汗腺が多く分布する手足には、排泄量が多すぎると皮膚に金属がどんどん残留、濃縮していきます。そうなると掌蹠膿疱症のように手足に皮膚疾患が発症したり、特に汗をかく夏場には、金属アレルギーの症状がひどく悪化するわけです。
さらに問題なのは、有機水銀に代表される一部の重金属の中には、体内に蓄積される一方のみで、体外にはまったく排出されないものがあります。このような金属の場合、皮膚の湿疹やかゆみというアレルギー症状ではなく、神経に蓄積されれば水俣病のような中枢神経症状、肝臓などに取り込まれれば肝機能障害を引き起こします。これらは金属中毒症状と考えられ、水銀中毒や砒素中毒といった、アレルギーとはまた別の疾患が発症します。
毒と濃度の関係
金属アレルギーなどのお話をすると、「金属は毒だ」、「金属をなくさなければいけない」とお考えになる方もいますが、あくまでも濃度の問題です。毎日摂取している水や食塩、ビタミンなども過剰摂取すれば死にいたることもあります。そういった意味では、それらも“毒”というわけです。また、猛毒のウランやPCB(ポリ塩化ビニフェル)は数ppmという単位で体内に存在していますし、イタイイタイ病を引き起こすカドミウムだって超微量ですが体内にある元素のひとつ。金属すべてが悪いわけではなく、過剰に体内に摂取されてアレルギーを引き起こすから悪いわけです。裏を返せば、少量であれば問題ないともいえます。