アトピー性皮膚炎を完治させたい人たちへ
「皮膚科に通っているけど、なかなか治らない…」アトピー性皮膚炎や原因不明のかゆみ、かぶれ、肌荒れでお悩みではありませんか?その原因、もしかするとお口の中の金属かもしれません。ここでは金属アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係について説明していきます。
金属アレルギーとアトピー性皮膚炎
金属アレルギーとアトピー性皮膚炎との関わり
1.アトピー性皮膚炎とは
2.アトピー性皮膚炎を悪化させる金属アレルギー
3.金属アレルギーと特に密接な関係のある「内因性」アトピー性皮膚炎
4.アトピーの基本治療
5.治療の基本の1つ 「原因・悪化因子の対策・除去」について
6.原因・悪化因子としての金属アレルギーの特定・対策・除去
1.アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、もともとアレルギーを起こしやすい体質の人や皮膚のバリア機能が弱い人によく起きてしまう皮膚の炎症です。皮膚が赤くなったり、カサカサしてかゆくなる、ブツブツができるなどの症状が慢性的に続いて、良くなったり悪くなったりを長く繰り返すなかなか治らない皮膚炎です。
アトピー性皮膚炎を短期間で完治させることはできませんが、正しいスキンケアと治療を根気よく行えば、症状をコントロールすることは可能であり、それほど社会生活に支障をきたさないでしょう。しかし重症のアトピーになると日常生活の様々なことに制限を受けることになります。起きている時も寝ている時も、耐え難いかゆみに常に悩まされ続けます。かゆみで眠れない。その影響で疲れが取れず、常に体が気だるくイライラしてしまう。今まで当たり前のように出来ていたことが出来なくなってしまいます。
アトピー性皮膚炎は命に関わる病気ではありません。たしかにその通りなのですが、ある意味それは間違いです。ひどいかゆみ、痛み、見た目、ストレスの原因など、日常生活を送るにあたり肉体的にも精神的にも大きなマイナスの影響を及ぼします。性格や考え方すら変えてしまうのです。
2.アトピー性皮膚炎を悪化させる金属アレルギー
金属アレルギーはアトピー性皮膚炎を悪化させる、というとにわかに信じがたいことかもしれません。しかし金属アレルギーとアトピー性皮膚炎とが関連性があるということは、実はかなり昔から知られていました。あるクロム金属アレルギーの患者がクロムでなめされた革靴をはき続けたことで、アトピー性皮膚炎の様な症状が出るようになりました。そして日常生活でクロムに触れないようにすることで、そのアトピー症状が改善したという症例を、今から50年も前の1965年にShanonが論文で発表しています。
金属には私達の免疫や身体に色々と影響を及ぼす作用があります。例えば金は関節リウマチの治療薬として使用されています。それは金製剤には免疫調節作用があるからです。亜鉛は300種類以上の金属結合酵素に必須の成分です。細胞内のシグナル伝達、遺伝子の転写などに重要な働きをしていて、免疫担当細胞の活性化に関わるさまざまな分子機構にも亜鉛は深く関わっています。また鉄分が不足すると貧血になるのは皆さんよくご存知の周知の事実です。
このように金属には不思議な免疫調節機能、変調機能があります。そのためある種の金属には、アトピー性皮膚炎をはじめとした金属アレルギー疾患に変調をきたす作用があっても不思議ではありません。事実、先ほどあげたようにクロムアレルギーでアトピー性皮膚炎が悪化したり、ニッケルアレルギーのあるアトピー性皮膚炎患者がマニキュアを使用したら、爪の周囲や体中のアトピー性皮膚炎が悪化したりすることがあります。このことから一見関係ないようで見落とされがちですが、金属アレルギーがアトピー性皮膚炎の増悪因子の一つであることは忘れてはいけないのです。
3.金属アレルギーと特に密接な関係のある「内因性」アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、さまざまな病因や増悪因子が関与して病態が作り上げられますが、その発症機序から「外因性」アトピー性皮膚炎と「内因性」アトピー性皮膚炎の2つのタイプに分類されます。
外因性アトピー性皮膚炎はアレルギータイプあるいはクラシカルタイプとも呼ばれ、通常よく見られるタイプです。フィラグリン遺伝子変異などによる皮膚バリア機能異常がおこると、外来抗原が繰り返し経皮的に侵入して、外来抗原に対するIgEが産生されてIgEが高値のタイプです。
一方、内因性アトピー性皮膚炎は非アレルギータイプと呼ばれ、IgE値が正常かやや高い程度で、皮膚バリア機能異常を伴わず、免疫反応も外因性アトピー性皮膚炎とは違うメカニズムによっておこると推測されます。
外因性と内因性アトピー性皮膚炎は見た目的には区別することはできませんが、内因性アトピー性皮膚炎には、いくつかの表のような特徴があります。
内因性アトピー性皮膚炎の特徴
1.血液検査値 | 血液検査のIgEという値が正常か軽度の高い値。 |
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2.病歴 | 鼻炎や喘息の合併は少ない。家族歴も少ない。 |
3.頻度 | 女性に多い70~80%。アトピー性皮膚炎の約20% |
4.臨床像 | 目の下のしわが多い。手のしわも少ない。発症年齢が高い。 尋常性魚鱗癬様皮疹が少ない。 |
5.皮膚バリア | バリア機能は正常。フィラグリン遺伝子変異は低頻度 |
6.免疫機構 | 免疫異常の値が外因性と違う。 外因性ADは末梢血リンパ球のIL-4、IL-5、IL-13が高いが、内因性はIL-4、IL-13が外因性ほど高くない。IFN-γ産生細胞が多い。 TARC値が正常。 |
7.他のアレルギーとの関係 | 金属アレルギー患者が多い。 |
外因性と内因性アトピー性皮膚炎は見た目だけで区別することはできませんが、いくつかの以下のような特徴があります。 両者を鑑別するいくつかの特徴的な皮疹があることが知られています。外因性アトピー性皮膚炎の患者さんにはpalmar hyperlinearity(手掌紋理の増強)、 plantar hyperlinearity (足底紋理の増強)がよく見られ、また下腿の粗造な尋常性魚鱗癬様皮疹も多く認められます。難治性の手湿疹を合併することも多いです。
一方、内因性アトピー性皮膚炎の患者さんは、全体の約20%の患者にみられ、他のアレルギー疾患の合併や家族歴がなく、女性に多いです。発症する年齢が比較的遅い、皮膚症状が軽い、目の下のしわが見られるなどの臨床的特長をもつ。特徴的な皮疹として、dennie-Morgan fold(下 眼瞼のシワ)があげられます。また金属アレルギーを有する患者さんが多いことが知られています。
外因性にせよ内因性にせよアトピー性皮膚炎の患者さん自体、正常人よりパッチテストで金属アレルギーに陽性反応を示すことは多いです。先ほど述べたように、クロム金属アレルギーによりアトピー性皮膚炎が発症することは古くから論文で報告されています。また金属制限食と身につけている金属を外すことにより、アトピー性皮膚炎症状が改善した例も報告されています。しかしさらに深く述べると、内因性アトピー性皮膚炎患者さんは、外因性の患者さんに比べて特にコバルト、クロム、ニッケルに対するアレルギー反応が出やすいことが知られています。最近の検討でも、内因性のアトピー性皮膚炎の発症メカニズムの一端が金属アレルギーと関係することが確認されています。このように特に内因性アトピー性皮膚炎においては、アレルギー発症を引き起こす抗原の1つとして金属の可能性が高いことが示唆されているのです。
4.アトピーの基本治療
金属アレルギーと関係があるといっても、いきなり特別な治療をするわけではありません。まず忘れてはいけないのはアトピー性皮膚炎の治療の基本は、「薬物治療」、「スキンケア」、「原因・悪化因子の対策・除去」の3本柱です。私もそう考えており、アトピー性皮膚炎の治療は「保湿ではじまり、保湿で終わる」と思っています。効果的な保湿外用薬を使用し、皮膚を乾燥させないようにスキンケアすることが大事です。
皮膚の外側には角層(角質層)といわれる組織があります。その中で細胞は層になって積み重なり、水分や皮脂が保たれる仕組みになっています。この皮膚の保湿機能が外からの刺激に対してバリアの役目を果たし、簡単には体内に異物が侵入できないようになっています。
ところがアトピー性皮膚炎の患者さんは、この角層の構造がもろいため普通の人より皮膚が乾燥しやすく、バリア機能が低下していることが知られています。そのため外部の刺激をより直接的に受けやすく、過敏に反応したところが、炎症をおこしかゆみの原因となるヒスタミンなどの物質が集まりやすくなるのです。
そこでアトピー性皮膚炎の症状を改善させたり再発を予防したりするには、皮膚を清潔に保ち、スキンケアで保湿を心がけ、皮膚の乾燥を徹底的に防いで、皮膚のバリア 機能を保つことがとても大切なのです。
そしてかゆみなどの炎症症状に対しては、ステロイドやタクロリムスの外用薬を主体に、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などの飲み薬を補助的に使用した薬物療法にて対処していきます。
いくら金属アレルギーと関係があるといっても、あくまで「薬物治療」、「スキンケア」、「原因・悪化因子の対策・除去」がアトピー性皮膚炎の基本治療です。
基本1 薬物治療 | 基本2 スキンケア | 基本3 原因・悪化因子の除去 |
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現在起きている、しっしんなどの症状の改善 | 皮膚バリアの異常を正す、適切なスキンケア | 環境やアレルゲンなど、外因性の原因の除去 |
5.治療の基本の1つ 「原因・悪化因子の対策・除去」について
治療の基本の1つである「原因・悪化因子の対策・除去」に注目してみます。アトピー性皮膚炎の治療は、かゆみなどの炎症に対してはステロイドやタクロリムスの外用薬を主体に、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服を補助療法として併用する、そして乾燥やバリア機能障害に対しては保湿剤などで保護することが基本です。
しかしそれと同じくらい重要なことは、可能な限り悪化因子を除去することです。アトピー性皮膚炎の基本的治療ガイドラインの中に「原因・悪化因子の対策・ 除去」があげられているように、このことは薬物治療と同じ重さをもって、場合によってはそれより重要な事柄として考えるべきでしょう。
これまでにさまざまな悪化因子が推測されていますが(上記図)、これらは年齢により異なり、さらに習慣、生活環境、生活様式が影響するため、個々の患者につき患者背景を把握し、原因の除去対策、生活指導が必要となります。アトピー性皮膚炎の管理の上で重要なことは、その患者さんにとっての増悪因子がどのようなものか、ということをなるべく多く探し出して、患者本人もドクターも認識しておくことです。そのような増悪因子を探るために、皮膚テストと総称される色々な検査がおこなわれるのです。
さてそれでは、そのような増悪因子はどういった検査をすると見つかるのだろうか、と思われるかもしれませんが、そこには少々考え違いがあります。増悪因子やその候補は患者さんとドクターとの共同作業によりリストアップされるものであり、それこそ患者さんごとに千差万別です。検査は、リストアップされた増悪因子の候補がどれくらい確からしいのかを確認する手段ということになります。そのような作業をもとにして確からしいと考えられた増悪因子は、可能な限り除去するということになります。このようにすることで、薬剤治療の効率上や使用薬剤の減量あるいは中止を考えることが可能になり、これこそが増悪因子の検索と対策の重要性の核心なのです。
6.原因・悪化因子としての金属アレルギーの特定・対策・除去
金属アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因・悪化因子の一つであることはご理解していただけたと思います。アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子となると、通常ダニ、ホコリ、汗、花粉、カビ、食べ物、動物の毛、住宅建材の化学物質などにまず最初に目がいくため、金属アレルギーは見落とされがちです。そして原因・悪化因子特定がいったん違う方向に進んでしまうと、なかなか修正が効かないものです。皮膚科医も意外と歯科治療の具体的な治療内容や使用されている歯科材料の成分には情報不足なことが多いです。また反対に歯科医サイドにしても、皮膚科に関する知識やアトピー性皮膚炎、金属アレルギーについて知っている歯科医師はほとんどいません。
なかなか治らないアトピー性皮膚炎の患者さんは、まずは「見いだし症候群」や先ほどの「内因性アトピー性皮膚炎の特徴」に当てはめながら、思い当たる節があるかどうか思い返しててください。もし当てはまるならば、皮膚科と医科との連携がとれている医院に受診されるといいでしょう。金属アレルギーの発見につながり、今まで暗礁に乗り上げていたアトピー性皮膚炎の原因検索に新たなヒントが与えられることが多いはずです。
見いだし症候群 |
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まずはどのような金属があなたにとっての悪化因子であるか、パッチテストにて特定していきましょう。悪化因子の金属成分が1つでないことはよくあります。いくつか複数の金属成分が原因となることが多いです。悪化因子金属を特定できたなら、適切な対策を立てて治療していくことができます。疑わしいアクセサリーなどの装飾品や革ベルトなどは極力外すように、また栄養を考えながらも金属成分が多く含まれている食事は避けるようにしていきましょう。原因・悪化因子金属が極力身体と接しないようにする、体内に取り込まれないようにするという観点からいうと、もしお口の中に該当する金属の被せ物がある場合、極力取りはずしていくことが治療の基本の1つである「原因・悪化因子の対策・除去」につながります。重要なことは、可能な限り原因・悪化因子の金属を除去することです。
金属アレルギーの原因がピアスや腕時計であることは想像がついても、まさか歯医者さんに治療してもらった被せ物であるとは普通では思いつかないことであり、見落とされていることはよくあります。それにいかに気付き特定して取り除いていくことが、金属アレルギーを伴ったアトピー性皮膚炎治療においてもっとも難しく、また経験とアイデアを要する治療なのです。